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高松高等裁判所 平成元年(ネ)26号 判決

主文

一  原判決の主文四項ないし六項を次のとおり変更する。

「 控訴人は、被控訴人に対し、金八〇〇万円及びこれに対する本件離婚判決確定の日の翌日から右支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。」

二  本件その余の控訴を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審を通じ、これを二分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人の負担とする。

事実

第一  申立て

一  控訴人

1  原判決中、親権者の指定に関する部分及び財産分与に関する部分を取り消す。

2  控訴人と被控訴人間の長男秋夫(昭和四九年三月三日生)の親権者を控訴人と定める。

3  被控訴人の財産分与に関する請求を棄却する。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は、控訴人の負担とする。

第二  主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほかは原判決事実摘示(原判決添付の別紙物件目録(一)(二)も含む。)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決五丁裏一行目の「あること」の次に「及び控訴人の特有財産である結婚前の預金一七〇万円を結婚後の生活費に費消していること」を加える。

2  原判決六丁表八行目の「室戸市役所から四三四万円」を「室戸市から六二〇万円」と、同九行目の「七三四万円」を「九二〇万円」とそれぞれ改める。

3  原判決七丁裏三行目の「看護」を「監護」と改める。

4  原判決添付物件目録(二)の二行目の「木造瓦葺平屋建建物(未登記)」を「木造瓦葺二階建建物(未登記)」と改める。

第三  証拠(省略)

理由

一  本件控訴は、原判決中の親権者の指定に関する部分及び財産の分与に関する部分について不服を申し立てるものであり、原判決中の控訴人及び被控訴人の各離婚請求を認容する部分については、当事者のいずれからも不服申立てがない。

二  本件における親権者の指定及び財産分与に関して、その前提となるべき基本的な事実関係については、次のとおり付加訂正するほかは、原判決理由説示一記載(原判決八丁表九行目から一一丁表三行目まで)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決八丁表一〇行目の「第五号証、」の次、同丁裏二行目の「第二五号証、」の次及び同四行目の「第三一号証、」の次にいずれも「原審における」を、同五行目の「第五号証、」の次に「当審における控訴人本人尋問の結果により真正に成立したもの(乙第一四号証の一ないし三については、控訴人主張の撮影日時、撮影対象であること)と認められる乙第一二号証、第一三号証、第一四号証の一ないし三、原審における」をそれぞれ加え、同六行目の「原告(第一、二回)」を「原審(控訴人については、第一回、二回)・当審における控訴人」と、同九行目の「証人東月子の証言及び原告(第一、二回)並びに」を「原審証人東月子の証言、原審(控訴人については第一回、二回)・当審における控訴人及び」と改める。

2  原判決九丁表九行目の「被告は、」の次に「結婚当時は、〇〇建設で重機の運転手をしていたが、間もなく〇〇コンクリート株式会社に移り、さらに」を加える。

3  原判決九丁裏二行目の「勤務し、」から次行の「なった。」までを「勤務するようになった。」と、同八行目の「いた土地代金二〇〇万円」を「共同取得していた土地の出資額相当分の権利」と、同末行の「勤務し、」から一〇丁表一行目の「得ていた。」までを「勤務した。」とそれぞれ改める。

4  原判決一〇丁裏七行目の「なった。」を「なり、秋夫が、平成元年四月、高等学校に進学した際の進学費用なども一切負担していない。」と改める。

5  原判決一〇丁裏八行目の「原告は、」から次行の「ために、」までを「ところで、前記のとおり、控訴人は、目録(二)2の建物の建築資金の半分以上並びに目録(二)2の土地及び目録(二)3の土地の取得資金の大半を最終的には頼母子講を落札して捻出した資金に頼ったうえ、さらに別口の頼母子講にも加入していたため、これらの講金の支払は、毎月相当額にのぼり、多いときには月額一六万円程度に達した。これに対し、控訴人の給与は、〇〇建設及び〇〇コンクリートに勤務していた当時は月額一三万円前後、ホテル〇〇当時は月額一〇万円前後、レストラン〇〇当時は月額一〇万円から一七万円程度であったため、被控訴人は、結婚して以来、生活費や講金などへの支払分の不足を補うために、」と、同一一行目の「働き、」から次行の「した。」までを「働いて家計を助けた。」とそれぞれ改める。

6  原判決一〇丁裏末行の「現在、」から一一丁表三行目の末尾までを次のとおり改める。

「 控訴人は、昭和六一年七月、目録(一)2の建物で郷土料理の店を開いたが、営業成績が思わしくなかったため、同年九月スナックに切り替え、現在もここで営業しているほか、昼間は室戸市の木材店で木材運搬の仕事をしている。このうち、スナックの営業は、右建物の建築に際して室戸市から借り入れた六二〇万円及び室戸市商工会から借り入れた三〇〇万円などの借入金の返済などがあるために純利益はほとんど出ない状態であるが、木材運搬の仕事による収入は月額一〇万円ないし一五万円ある。

他方、被控訴人は、平成元年五、六月ころからは、室戸市内の山野某の経営する喫茶店に勤務し、同年七月ころからは、秋夫と共に右山野の家で、同人と同居している。被控訴人は、右の勤務により、月額一三万円の収入を得ている。

また、秋夫は、現在、高校一年に在学中であり、両親が離婚する場合には、母親である被控訴人との同居を望んでいる。」

三  そこで まず、親権者の指定について核討すると、前記二に認定の諸事情、特に控訴人と被控訴人との別居の経緯、別居後現在に至るまでの秋夫の生活状態、秋夫本人の意思などを総合して判断すれば、秋夫の親権者は、被控訴人と定めるのが相当である。

四  次に財産分与について検討する。

1  前記二に認定の事実によれば、目録(二)2、3の各土地は、控訴人と被控訴人の婚姻中に得た実質的共有財産であると認められ、また、目録(二)1の建物も、その建築代金約二〇〇万円のうち一〇四万円は、その引当てとなった頼母子講の落札分の講金を、婚姻後に返済していることに鑑みると、やはり実質的共有財産として清算の対象に含めるべきものと認められる。

また、この他に、控訴人と被控訴人が婚姻後に得た財産として、目録(一)2の建物とその什器備品などがあるが、右建物の建築及び什器備品等の設備投資は、控訴人が被控訴人の反対を押し切って実行したものであり、そのための資金もほぼ全額が借入金で賄われ、右借入金の返済について、被控訴人はなんらの寄与をしていないのであるから、右の積極財産としての目録(一)2の建物及びその什器備品並びに消極財産としての右建物の建築資金及び設備投資資金のための借入金は、いずれも清算の対象とすべきものとは認められない。

2  そして、右の清算の対象となる各財産の形成について被控訴人の寄与度は、その間の控訴人の収入を勘案すると、被控訴人が家事と育児を行いながら、さらに、前記認定のとおりの仕事に就いて収入を得て家計を助けていたことが大きく貢献しているというべきであるから、目録(二)1の建物については二割五分、目録(二)2、3の各土地についてはいずれも五割を下らないものと認められる。

なお、被控訴人は本訴において慰藉料を別途に請求しており、また前記認定のとおりの事実関係の下では、婚姻の解消に伴い、当事者の一方の生活には余裕があるのに他方が生活に困窮する状態が生じるとも認められないから、本件の財

産分与に当たっては、慰藉料的要素及び扶養的要素は考慮しない。

3  清算の方法としては、目録(二)3の土地は、目録(一)2の建物の敷地として利用され、右建物は、現在、控訴人が営業のために使用していること、目録(二)1の建物の敷地である目録(一)1の土地は控訴人の特有財産であり、被控訴人及び秋夫は、現在、右建物に居住していないこと、目録(一)1の土地及び目録(二)2の土地には、控訴人が前記の店舗を開店するために東月子から借り入れた借入金を担保する目的で同人のために所有権移転請求権仮登記が経由されていること(このことは、前掲甲第二号証、同第四号証及び原審における控訴人本人尋問の結果によって認める。)などに鑑みれば、清算の対象となる不動産はいずれも控訴人が取得することとしたうえで、控訴人から被控訴人に対し金銭支払による分与を命じることが相当である。

4  前記一に認定した諸事情と当審における控訴人本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第一一号証の一、二、当審における控訴人及び被控訴人各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、目録(二)1の建物の時価は一〇〇万円、目録(二)2の土地の時価は五五〇万円、目録(二)の3の土地の時価は一〇〇〇万円であると認めるのが相当である。

5  そうすると、控訴人は、被控訴人に対し、離婚に伴う財産分与として金八〇〇万円及びこれに対する本件離婚判決確定の日の翌日から右支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による金員を給付すべきこととなる。

五  以上の次第であるから、本件控訴のうち、財産分与については、前記判断の趣旨に沿って原判決を変更することとし、その余の点(親権者の指定の点)については理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法九六条前段、九二条本文の規定を適用して、主文のとおり判決する。

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